資産形成コラム

私の無形資産形成 第3章「離職者ゼロ」の組織論」

第3章 「離職者ゼロ」の組織論

ある日気付いた、自分の組織の特徴
資産形成の経験がない私にとって、唯一にして最大の資産・・・、「私の無形資産」ついてご紹介するこの連載。3回目のテーマは、私が主治医を務めてきた病棟で、いつからか繰り返されてきた「離職者ゼロ」という特徴について、です。

前回第1章では、身近にある小さな経験を積み重ねることによって、他者と自分を差別化する「多様性の獲得」についてご紹介しました。獲得した多様性によって特徴づけられた唯一無二のアイデンティティを獲得すると、その他大勢の中で光り輝く存在となり、注目を集めるようになります。そんなあなたに次々に舞い込む「おいしい話」を、幸運の連鎖に変えるのが、第2章でお伝えした「断らない覚悟」です。私の信条の根幹となる「断らない」ことによってもたらされた、マンガのようなエピソードをご紹介しました。

断らないことで、私は幾つもの組織やチームを任されてきましたが、数年前のある時、担当病棟の看護師長から、「今年もすごい離職者が出たのに、ウチの病棟だけ離職者ゼロ。みんな居心地いいみたいですよ~。これも先生のおかげね!」と。私はこれまで異動も多く、いくつもの病棟で多くのスタッフと仕事をしてきました。するとどうでしょう、自分が担当した多くの病棟で「離職者ゼロ」なのです。この理由について、私なりに得た結論と、そこに至る私なりの工夫をご紹介していきます。

租税徴収の仕組み
資産形成のコラムだから、わざわざ意識して「租税徴収の・・・」なんて項目をつくったわけではありません。これは消費税増税に際してニュースを見ていて感じたことです。資産形成に明るい皆さんに、素人の私が問うことではないと思うのですが、問題です。

「富裕層の所得税を20%増やす場合と、消費税を1%増やす場合、税収が多いのはどちら?」

富裕層の定義にもよるとは思いますが、当然、後者ですよね。簡単過ぎる質問で失礼しました。では言葉を変えて改めて質問します。

「リーダーのヤル気を20%増やす場合と、スタッフ全員のヤル気を1%増やす場合、組織としての生産性が高いのはどちら?」。

これまで私が担当してきた部署は「回復期リハビリテーション病棟」といって、責任者の私を含めて医師3人、看護師50人、ケアワーカー10人、リハビリスタッフ160人、事務職員2人という、合計すると200人以上になる組織です。先程の2番目の質問を、この人数を当てはめて考えてみてください。答えは明らかなはずです。

優秀なリーダーは、その人だけで問題を解決することができ、さらにその方が問題解決までのスピードも速いはず。ですが上記のセオリーに当てはめれば、それはむしろ愚行と言えます。組織の力を高めるには、リーダーの「個」を消して、組織の「和」を活かすことが肝要なのです。

鋼鉄王の墓碑
ニューヨークにあるカーネギーホールで有名なアンドリュー・カーネギーは、スコットランド生まれの実業家で、アメリカで鉄鋼会社を興して成功を収め、「鋼鉄王」と呼ばれた人物です。スリーピーホロウ墓地にある彼の墓碑には、「自分より賢い人物を自分の周りに置く方法を知っていた者、ここに眠る」、と記されています。この一文から、リーダーに必要なのは、「いかに周りの協力を得られるか」、ということが分かります。

組織の主役は誰?
時としてリーダーの「個」は、組織の生産性を向上させないばかりか、むしろ害悪となります。リーダーにとって最も重要なミッションは、組織の力を最大化することです。そこで私が常に意識しているのは、「組織の主役は誰なのか」ということです。組織の生産性を高めるためには、現場で働くスタッフを組織の主役として捉え、リーダーは黒子に徹するべきです。

しかし「スタッフが組織の主役」であることが分かったとして、どうすれば彼らを主役にできるでしょうか。第1章でお話しした通り、私はお世辞にも優秀な人間ではありません。ですから今でも同僚医師だけでなく、看護師やリハビリスタッフ、ケアワーカーや事務職の方など、皆さんにもいつも助けられてばかりです。そして医師という、医療において中心的な存在ではあっても、全ての業務において、私より優秀で、熱意あふれるスタッフが大勢いることも知っています。ですからあなたの許容できる範囲で、彼らの情熱を、叡智を、止めさえしなければいいのです。こうすることで、スタッフ一人ひとりの仕事に「主体性」が生まれ、彼らは自身の仕事にヤル気と責任感を持って取り組むようになります。

確かに、自分より経験の少ないスタッフに仕事を任せる不安もあると思います。しかし考えてみてください。皆さんはこれまで、どうやって成長してきたのですか?1つの失敗もなく、完璧に職務をこなして ここまで成長してきたのですか?殆どの方は、むしろ失敗から多くを学んできたのではないでしょうか。そして、尻拭いをしてくれた上司や仲間の存在があったのではないでしょうか。リーダーは、常に組織全体について責任を取らなくてはなりません。私なりにもう少し具体的に言い換えると、リーダーとは、組織の黒子に徹し、主役であるスタッフに主体性を持って仕事に臨んでもらえるよう、自身の責任に於いて挑戦する自由を与える存在なのです。

自走する組織
スタッフ一人ひとりが主体性を持って仕事に取り組むようになると、組織に変化が見られるようになります。組織が少しずつ自走し始めるのです。これこそが私が理想としている組織のあり方です。

やがてスタッフの中にも役割が生まれ、リーダー以外にも、サブリーダー的な存在が出現するようになるのです。始めはリーダーが全てに関わっていたかもしれませんが、組織の中にサブリーダーが生まれ、更にサブリーダーを支えるサブ・サブリーダーが次々に生まれ、組織はより重層的になっていきます。重層化された組織では、リーダーの仕事がなくなるのか、というと、そうではありません。そんな時でも、リーダーは常にヴィジョンを示す必要があります。組織の進むべき方向を示し、常に方向修正する必要があるのです。

この頃になると、あなたの組織で主体性を持って働くことの楽しさを知り、サブリーダーとして頭角を表すスタッフが出現するようになります。そんなサブリーダーを、周囲が放っておくはずがありません。サブリーダーはやがて他部署に異動することになり、より責任あるセクションを任せられるようになるでしょう。サブリーダーが異動してあなたの組織を去ると、組織の生産性は低下したように思えるかもしれません。しかしそんなことは全くありません。リーダーが黒子に徹し、スタッフの成長を止めさえしなければ、次のサブリーダーが誕生することになります。前任のサブリーダーとは異なるアプローチであっても構いません。この一連の過程は、生物学的に「新陳代謝」と言われるプロセスに似ています。そう、組織の新陳代謝です。

サブリーダーの交代によって生まれた変化は、組織に新たな可能性・多様性をもたらし、それはやがて、あなたの組織が他の組織から差別化されだけのアイデンティティになります。このプロセス、どこかでご覧になったことはありませんか?そうです、第1章でお話しした内容そのものです。「多様性の獲得」によって「職業的アイデンティティ」を形成していくことで、あなたの組織は、他の組織から一歩先行くプラチナチームになっているはず・・・。スタッフは主体的に働くことができ、組織の生産性が高まることでスタッフへの評価も向上し、誇りをもって働くことができる。そんな組織、誰が辞めたいと思うでしょうか?これが、自走する組織が行き着く場所、組織の最終到達地点なのです。そこにたどり着いた時、離職者はゼロになっているはずです。

成長の芽を育むノート
これまでお話しした通り、これまでに最大数百人にものぼるスタッフと協力しながら、患者さんの診療に当たってきた私ですが、組織が大きくなればなるほど、全く顔を合わせないスタッフも多くなってしまいます。また医療組織のようにフルタイムどころか24時間動き続ける組織では、尚のことです。

しかしそれ故、ある問題が生じたのです。特に夜勤のスタッフが気づいた問題点が、私には届きにくくなってしまったのです。どこの組織でも「ホウ・レン・ソウ」が基本ですから、夜中に発生した問題であれ、スタッフ間で伝達されて私の耳にも届くようになっています。しかし「小さなこと」は忘れられてしまいますが、しかし患者さんにとっても「小さなこと」とは限りません。スタッフの気付きを細大漏らさず活かすためには、どうすれば良いでしょうか。そこで私は、スタッフの気付きをノートに書いてもらうことにしたのです。「このIT時代にわざわざ手書きでノートなんて・・・」と思うかもしれませんが、こんな時代だからノート、なのです。

病院という職場の特殊性かもしれませんが、記録は電子カルテに記録していきます。電子カルテの特徴は、情報が個人ごとに、時系列に従って入力されていることです。これは個人のカルテを閲覧するには便利で、しかも事象が起きた時間や、それを記録した時間も記録されます。しかし個別性・秘匿性が高いあまり、担当部署全体で 誰に何が起きたのかを広く知ることができないのです。またそれを大勢で供覧することもできないという、秘匿性ゆえの構造的欠陥もあります。スタッフの気付きを活かすためには、電子カルテよりも、壁新聞的・回覧板的な機能の方が適していると考えたのです。

ノートによってある看護師の気づき確実に他の看護師にも伝わるようになり、漏らさず私にもたらされ、患者さんの治療や組織の問題解決にも大いに役立ちました。しかし何と言ってもノートの最大の効果は、「スタッフの気付きが医師を通して患者さんの改善に直結すること」です。つまり場合によっては、スタッフが気付いたことで患者さんの命が救われることもあるのです。これ以上にスタッフが 自分の仕事に主体性を感じられる瞬間はないのではないでしょうか。ノートはスタッフの仕事に主体性を与える最も重要なアイテムの1つなのです。

今回は「離職者ゼロ」の組織論と題して、私のチームづくりの秘訣についてお伝えしました。しかし実は、「離職者ゼロ」を実現するために、リーダーが為すべきことがもう一つあるのです。それは、「5分間勉強会」。次回、じっくりご説明します。お楽しみに!

医師 杉山陽一Dr. Sugiyama Yoichi

45歳 埼玉県出身 杏林大学医学部卒 専門は老年病科
永生病院 リハビリテーション科勤務
国立職業リハビリテーションセンター 医療情報助言者
杏林大学医学部同窓会理事

これまで病院の立ち上げや業務改善に多く携わる。
医療系雑誌やサイトでの連載・寄稿多数。
現在は医療系雑誌の監修も担当。趣味は音楽活動(Vo.)。

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