資産形成コラム

私の無形資産形成 第2章「断らない覚悟」

第2章「断らない覚悟」

「断らない」ことで広がる可能性
私は都内の病院に勤務する45歳の医師です。この度、ご縁あって「資産形成」に明るい当サイトに寄稿させていただく機会を頂戴しました。資産形成の経験がない私にとって、唯一にして最大の資産…、「私の無形資産」ついてご紹介するこの連載。

前回第1章では、身近にある小さな経験を積み重ねることによって、他者と自分を差別化する「多様性の獲得」についてご紹介しました。私の場合、様々な研究会や勉強会に参加することで多様性を獲得してきたわけですが、自身で獲得するものばかりではなく、明日の多様性の素となる経験が、時には他者によってもたれされることもありました。

この「ダイヤの原石」とも言えるチャンスを断れば、それは他人の手に渡り、その人を彩る多様性となって、多様性によって形成された誰かのアイデンティティが、やがてあなたを「その他大勢」へと追いやってしまうかもしれません。決して皆さんを脅して、ビビらせるつもりではないのです。ただ、私が他者からもたらされたチャンスを「断らなかった」からこそ得た経験が、私を「その他大勢」から引き出してくれたと、強く思うからなのです。

今回のテーマは、「断らない覚悟」。他者からもたらされるチャンスを「断らない」なら、これからは あなたにしかチャンスは訪れなくなるかもしれませんよ。

断れば次はない
あなたが誰かに頼みごとをしたとします。最初に相談したAさんはあなたの依頼を断りました。仕方がないから、Bさんにその依頼を持ちかけると快く引き受けてくれました。しかも笑顔で、「あなたが困っていると思ったから・・・」と、優しい言葉まで付け足して。

後日、あなたにはまた、誰かに頼まなくてはならない案件が生じます。このとき、先程の2人のうち、どちらならあなたの依頼を引き受けてくれると思いますか?同じ人にまたお願い事をすのは申し訳ないと思いつつも、引き受けてくれる可能性が高いのは、やはりBさんではないでしょうか。ここでBさんがあっさりあなたの依頼を引き受けてくれました。

では最後の質問です。似たような案件が再々度生じたとき、依頼相手として、あなたはAさんを思い浮かべるでしょうか?

「おいしい話」は必ず最初にやってくる
あなたは分譲マンションの購入を検討中だとします。あまり下調べもしていない状態だったために、良さそうな物件があっても「もっといい物件があるのではないか」と考えて購入を断念しました。物件は慌てて購入するべきではなく、じっくり選ぶべきです。下調べなしなら、私も購入しません。

しかし誰かがあなたに持ちかける依頼となれば話は別です。物件の購入の様に対象は不特定多数ではなく、依頼者周辺にいるあなたを含む数名程度。依頼者との関係はその後も続き、前項でもお伝えした通り「断れば次はない」のですから、あなたにはチャンスは巡って来なくなるかもしれません。

私の場合、「おいしい話」は最初にやってくると信じることにしています。この「おいしい話」とは、儲け話のようにラクして稼げる的な話ではありません。私の言う「おいしい話」とは、「たとえ困難であっても、その困難を引き受けたことで積み重ねた経験が、明日の自分の礎となる話」のことです。「自分の成長を促す経験」とも言えるかもしれません。決して簡単ではない話を持ちかけた依頼者の中であなたの評価は上昇し、案件が困難であるほど評価が上がるはずです。

大切なのはこの後です。この後 依頼者のもとに、誰かの成長エンジンとなりうる「おいしい話」が巡ってきたとします。その依頼者は、一見困難とも思える案件を、けれどもその人の成長につながると思う話を、誰に持ちかけようとするでしょうか。「おいしい話」は最初にやってくる、とは、例え目の前の案件が魅力的でなくても、一発で快く引き受けた人のもとには、次々にその人の価値を高める話が舞い込む、と言うことなのです。

苦手でも、畑違いでも「断らない」
「おいしい話」は必ず最初にやってくる。ではその話が、苦手な分野だったり、これまで考えもしなかった畑違いの領域の話だったとしたら、あなたは引き受けますか?ここまで読んでくださった皆さんなら、結論は出ているはず。もちろん、快諾ですよね。だって苦手で真正面から取り組みたくもなくて見て見ぬふりをしてきた分野、畑違いでも全く知識がない領域だからこそ、取り組んだ時に得られるゲインは大きいはずですから。

でも正直、苦手や畑違いの案件は、引き受けたくないですよね。そんな時、私はいつも「2人の自分」を思い浮かべるようにしています。「苦手や畑違いといった難題を克服して、更に成長した自分」と「挑戦もしないで今日と変わらない自分」。あなたはどちらを選びますか?

「断らない」が故の幸運の連鎖、私の場合
大学を辞めてから7年間勤務した民間病院グループでの経験が、私にとって強力な成長エンジンになりました。その中でも、最も劇的に私を変え、また私を特徴づけたエピソードについてご紹介しましょう。

大学病院勤務を辞めた後も学会での発表を続けてきた私ですが、平成26年の老年医学会は、私にとって思い出深い学会となりました。発表を終えた私が空港で飛行機の出発を待っていると、以前の出向先の院長とバッタリ。飛行機への搭乗を急ぐ院長は、「ちょっと手伝って欲しい研究があるんだが、引き受けてくれよ。詳しい事は後日改めて。」といって足早に去って行きました。

後日、私に話を持ちかけた理由を院長にうかがうと、「杉山は何でも断らずに引き受けてくれるからなぁ」と。数日後には担当だと名乗るO先生からメールが届き、その研究が「平成26年度経済産業省委託研究・健康寿命延伸産業創出推進事業」だと知りました。

研究概要を簡単に言うと、「高齢者にお化粧をする事で得られる効果を検証する」というもの。参加団体は、資生堂、NTT data、東京都健康長寿医療センターと言った有名どころがズラリ。私の職場はデータフィールドとして研究に参加しましたが、他に引き受ける医師もいなかったため、「断るまでもなく」私がデータフィールドの責任者に。幸運なことに研究終了間際になって、斬新な研究に興味を持ったNHKから取材要請があり、現場での様子を撮影するというので私も取材を受け、晴れてNHK初出演となりました。

後日、無事終了した研究の慰労会が行われたのですが、研究当初はデータが不足して困っていたそうです。例の院長からの依頼を私が「断らなかった」ことで、充分なデータ採取ができ、研究を完遂できたと皆さん感謝してくださいました。

慰労会も終わり、二次会のカラオケへ。実は数年ぶりにカラオケに行った私は流行りの歌が歌えず、研修医時代に教授からよく歌わされていたBilly Joelの「Honesty」を選曲。若かりし当時を懐かしんで精一杯歌いました。するとO先生が激賞してくださって、周囲の人もザワザワ。実はO先生、ギターの名手でバンドを持っているのだけど、新たにボーカルを探している、と。

小学校時代の音楽の成績は「2」で、音符も楽譜も読めない私。O先生と仲間達の誘いを受けていいものか非常に悩みましたが、最終的に「いただいた話は断らない」という私の信条に従って、40歳にして初の音楽活動をすることになりました。大学時代に現実逃避から、成績の芳しくない者同士2人で歌い続ける「8時間耐久カラオケ(8耐)」が、ここで役に立ったのかもしれません。「人生、無駄なことなど何もない」と開き直って、当時の怠慢を強引に正当化しました。

バンド活動はスパルタ形式で、練習初日はジャズギタリストのTさんの指導のもと、「Fly me to the moon」だけを3時間練習し、その後にバンドが練習を6時間・・・(やはり8耐はムダじゃなかった!)。こんな練習を数回続け、2ヶ月後にはライブハウスデビュー、その翌月には歴史あるお祭りで数百人を前にステージに立ったのでした。

時は流れ、色々あって(音楽性の違い、っていうとカッコイイ?)、3年間でバンド活動から離れた私でしたが、この間に大学同窓会の理事に就任しました。自身の活動をFacebook にupしていたのをご覧になった先輩が、アレコレ同時にやっている私に注目し、同窓会運営本部に推薦してくださったのです。当然このお話も、断るわけがありません。

私大医学部の同窓会は連帯が強く、「私立医科大学同窓会総会」なるものを毎年実施しています。偶然にも私の出身大学が幹事校になったのですが、幹事校は何らかの「出し物」をする事になっています。本番1年前の理事会で、本学の同窓会長はあろうことか「杉山君に歌ってもらおうと思う」というのです。私の歌を聞いたこともないのに・・・。

楽器もできず、バンドも辞めていた私にとって、大学のオーナーや学長が列席するホテルのボールルームで、30分もステージができるのか・・・、悩みました。でも、皆さんならこの流れ、お分かりですよね。はい、断らずにお引き受けしました。幼なじみのプロピアニストの素晴らしい演奏によって実力以上に引き立てられた私の歌は望外のご好評をいただき、興奮した来賓の方々との名刺交換で列ができるほど・・・。おかげで理事をクビにならずに済みました。

幸運の連鎖は、これで終わりではありません。職場にも7年間勤務し、組織を充分に知り尽くした私には、ちょうど良い「旅立ちの時」だったのかもしれません。この4月に転職する事になったのですが、その決め手は、あの同窓会総会のステージ、だったのです。歌のインパクトが絶大だったらしく、偶然にもその場に居合わせた医療機関のオーナーから、熱心にお誘いいただきました。「断らない」という信条ひとつで、ここまで幸運が連鎖するとは、私自身、今でも信じがたい気持ちです。

唯一の不安は、評価されたのは歌唱力であって、仕事の能力ではない、という事です。言っておきますけど、新しい職場の皆さんが後悔する事になっても、私のせいじゃないですよ。

「断らない」は、リーダーへのファストパス
これまでご紹介してきたのは、「断らない」ことで私にもたらされた幸運の一例でしかありません。先程のエピソードにもあった通り、きっかけとなった研究を持ちかけて下さったのは院長は、それまでの私の仕事ぶりを見てくださっていたから、私が「断らずに引き受ける」と知っていたわけです。そうだとすれば、私について同じようなイメージを持った他の誰かからもオファーが届くはず。

そうやって皆さんからいただいた複数のオファーに応えていく中で、他の誰にも真似できない多様性やスキルを身につけた私は、組織を率いるリーダーをいくつも兼任していくことになりました。「断らない覚悟」を身に付けることで、あなたのリーダーへの道は、約束されたようなものかもしれません。

今回もご覧いただき、ありがとうございました。次回への伏線として、もう少し話を続けます。それは、私の組織に共通する、ある特徴についてです。それは、「離職者ゼロ」。何故か私の組織のスタッフの皆さんは、異動希望を出さず、退職もしない。

次回、第3章では、この「離職者ゼロの組織論」をご紹介します。お楽しみに。

医師 杉山陽一Dr. Sugiyama Yoichi

45歳 埼玉県出身 杏林大学医学部卒 専門は老年病科
永生病院 リハビリテーション科勤務
国立職業リハビリテーションセンター 医療情報助言者
杏林大学医学部同窓会理事

これまで病院の立ち上げや業務改善に多く携わる。
医療系雑誌やサイトでの連載・寄稿多数。
現在は医療系雑誌の監修も担当。趣味は音楽活動(Vo.)。

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